LastEclipse 第一章:失墜のプライド4 【長編小説】| ページ内の末尾へ |


遭遇〜encounter〜

何かを決意したように立ち上がり──歩き出した

* * *

「はぁ……はぁ……」
 走り続けて疲れたのか、蒼木護はふいに道路に座り込んだ。人通りが少ないのが幸いで、何より人目につかなければどこでもよかったのだが。
 自分の身体が意味不明な、奇怪な状態に陥ってしまっては動転するだろうが、走り続けても意味がないのもわかっていた。
 改めて、自分の身体を見る。手を広げてみると、きらきらした粒子のような細かい粒が光っているように見える。触ると、冷たい。細かくなった雪の結晶のようだ。
 そしていつの間にか身体中についた雪の結晶を手ではたき取る。今日は雪なんて降っていない。てことはやはり、自分の身体から出たものなのだろうか……
 直に手を触ってみる。雪の結晶を触ったような冷たさはなく、自分で自分の皮膚を触ると、なんてことはなく常温と感じ取れる。
「でも、橋本に触られたときは……あいつ、『冷たい』って言ってたよな」
 感覚がおかしくなってるのか、それとも冷たさに慣れた身体になったのかはよくわからない。
 ふと見ると、座っていた道路の壁ぎわに、雑草が生えている。
 手で掴み取ると、その雑草はたちまち凍っていき、やがてかちんこちんに硬くなってしまった。思わず手を放してしまう。
「はぁ……」
 走ったせいで逆に落ち着いたのか、だんだん冷静に考えられるようになった。
 どうやら自分の触ったものは、凍ってしまうらしい。いや、自分の身体を触っても冷たいらしいのだから、きっと自分も氷のような身体になってしまったのだろう。
 でも……何故だ、理由がわからない。昨日までは何事もなく普通に過ごしていた……いや、違う。
 昨日の時点ですでにおかしかったのだ。母も冷たいと言っていたし、それに頭痛もあった。多分昨日発症したんだ。何が?どうやって?
 数日前の行動を思い出してみても、おかしな病気にかかった覚えは無い。テスト前だからゲーセンにも行ってないし、水城の勉強をみてやったぐらいしか……外でやんちゃした覚えもない。
 最近見たSF映画に、『アイスマン』という全身氷に覆われた怪物がいたのを何故か思い出した。
「はっ……そんなばかな」
 ズボンをはたいて立とうとすると、そこに二つの人影があった。
「ほんと、ばかげてるよなぁ」
 短い金髪頭の黒いサングラスをかけた男は、あきらかにこちらに向かって喋っている。
 その後ろにいる白いジャケットを着た──でかい帽子に隠れて顔が見えなくて断定しにくいが──女は無言で突っ立っている。
 そしてその金髪男の声には、どこかで聞いた覚えがあった。
 二人とも確かに初めて会う。そして見ず知らずの人に話しかけられる筋合いはない。でもそのときの俺は、とっさに驚くことも、逃げることもしなかった。相手の行動にいつでも対処できるように、肩の力を抜く。運動神経はあまり無いが、多少喧嘩慣れはしていた。
「まぁまぁ、そう威嚇いかくするような眼で見んなって」
 金髪男は肩をすくめるような動作をして、少しずつこちらに歩いてくる。
「あんたら、身に覚えがないけど、誰だ」
「おんやぁ、驚かないのかい?根性あるねぇ」
 ニヤニヤしながら、また一歩こちらへ寄ってくる。その黒いサングラスの奥からは、青色の眼がかすかに見える。
「おい『ディスコード』!こいつぁ相当きもが座ってるぜ!」
 その女の名前なのか、斜め後ろに向かって金髪男が呼びかけた。
「……そのようね。『素質』としては十分か、あるいは……」
 おおよそこちらには理解できない単語を使う。
「なぁ、おっさんにおばさん、誰だって聞いてるんだけど」
「おいおいおっさんはねぇだろぉ、確かに俺ぁ今年で40になるけどよ、おっさんって言われる筋合いはねぇぞ、ボウズ?」
 えらく軽い口調で喋ってくれる。後ろの女は黙っているようだった。
「つーかおめぇ、俺のこと覚えてないか?」
「……は?」

 ──また会おう、蒼木君──

「!?」
「思い出したようだなぁ、ええ?」
 その声は、まるで遠くにいるようなのにすぐ耳元から聞こえるような、背筋が凍りつくような……
 初めて蒼木は、恐怖という感情が自分を覆うのを自覚した。
「あんた、バス停ん時の……」
 金髪男は不敵に笑った。底の知れない笑みだった。
「俺の名前は『イクシード』。まぁ、もちろん本名じゃねぇが……ダチからはそう呼ばれてよ」
「名前なんてどうでもいい!」
 恐怖に押しつぶされまいと、叫んだ。
「そうだ、思い出した……あんたの、その声を聞いてから、俺の身体がおかしくなっちまったんだ!」
 もう一本、地面に生えていた雑草をつかむ。するとまた凍っていく。
「ほぉ、こいつぁすげぇ……」
「感心してる場合かよ!」
 蒼木は怒鳴って、その雑草を地面にたたきつけた。
 その雑草が音を立てて割れた。
「あんた……俺の身体に何したんだよ」
「『凍らせる』能力……か?これは対したモンを見つけちまったもんだぜ、どういう構造になってんだ?」
「こっちが聞きてぇよ!」
 思わず声を荒げてしまう。が、金髪男はニヤニヤしてるだけだ。まるで挑発に乗られている気分だ。
「説明すると長いんだよ。そうだな……場所を変えねぇか」
「嫌だね」
「……ほう?」
 金髪男の雰囲気が急に変わった。さっきのようなチャラチャラしたイメージが、消えうせていた。
「ここで話せることっつったら……お前は、そう、俺らのモルモットだ。わかるか?」
「ふざけんな!」
「まずお前の身体は……俺の『能力』で目覚めさせた、お前の本当の『力』だよ、蒼木護」
「何わけのわかんねぇことをっ……」
 殴りかかろうとして金髪男の顔にこぶしが当たる寸前で……手が動かなくなった。
「なっ……?」
「そのお前の『凍る』能力はよぉ、まぁなんだ……進化、って言えばいいのか、お前が手に入れた新しい力だよ」
「何を……」
 拳どころか、身体が動かない。何かに押さえつけられているように、びくとも動かない。
「例えば、だ。ある朝目覚めると、自分の身長が伸びていたりとか。昨日まで解けなかった問題が、次の日解けるようになったりとか。そういう些細なモンでしかないんだよ、こいつぁな」
「わけのわからないことを……」
「で、お前の身体だけど。心配すんな、今は気が動転してパニックになって、自分の能力を抑えられないだけだ。直におさまる。『それ』はもう、お前のモンだからなぁ」
 まるで俺を倒せるものなら倒してみろと言わんばかりの顔でこちらを見下してきた。蒼木は、攻撃することもあがくこともできなかった。
「心配すんなって、お前は人間をやめたわけじゃねぇし、たまたま『事故』にあっちまっただけなんだよなぁ。なんせ、俺のあの『声』を聞けるやつは、何故だかみんなこうなっちまう」
「『声』……?」
「おめぇも聞こえたんだろ、あの『声』が。どうやら俺の『声』を聞いちまったやつは……」
「イクシード!」
 いきなり後ろの女が叫んだ。と同時に、身体の自由が利くようになった。
「な、なんでぇいきなり……」
「喋りすぎよ。まだ実験段階で、そこまで言ってやる義理はないわ。敵になるかもしれない」
「いいじゃねぇかよぉ、こいつの自由を抑えられれば……ん?」
 金髪男が振り向くと、そこに蒼木の姿はなかった。
「はぁ……逃げられたみたいね」
「お、おめぇがおどかすからだろうが!」
「まぁいいわ。どうせまた私たちと会うことになる」
「あぁ、そういやぁ桜光高校にゃ、『観察者』がいたな」
「そうね……報告によると、蒼木君はどうやら、『神隠し』の事件について結構調べてるそうよ」
「おーおー、おっかねぇもんだ」
「おっかないのはどっちよ」
 ため息をついて、女は先に歩き出す。
「お、おい、待てよ」
「知らない」
「ったくよー」
 金髪男も後を追う。
 その足取りの向かう方向は、その街の中心にある大きな丘の方へ向いていた。
 裏山と呼ばれる、桜光高校のある方へ……
「しっかしまさか、『神隠し』の事件の犯人が、俺たち異能のモンだとは、ボウズでも調べられんだろうがな」

* * *

「はぁ……はぁ……」
 身体の自由が利くようになって逃げてきたが、あのままあそこにいたんじゃ何をされたかわかったもんじゃない。
「冗談じゃ……ないぜ……」
 ますますわからないことばかり増えていくが、悩み事は一つ解決した。
 誰だかは知らないけど、イクシードって言ってたか……バス停でのあの声は、あいつのものらしい。  あの背筋が凍るような声……一体あいつは何者なんだろう。
 でもそれだけが解決しただけで、むしろ悩みのタネは増える一方だ。
 能力って言ってたけど……まさか俺にそんな、SFじみたものが備わったとでも言うのだろうか。ありえない。確かにSF小説とかもよく読むけど、俺は普通の高校生だ。実際そんな力なんていらないし、出来のいいシナリオがこの先待っているとも到底思えない。
 わけのわからないことが連続して起こりすぎて、頭がおかしくなりそうな……
「も、もうだめだ、走れねぇ……」
 また座り込もうと思うと、そこは見たことある風景だった。
 あの公園……
 『立ち入り禁止』の黄色いテープが砂場らしき方に貼られていた。
「まじかよおい……」
 さすがにもう移動するつもりはなく、ブランコのほうに座ってしまった。
 殺人現場を思い出したくないので、砂場の方には顔を向けないようにしている。
「しかし……何から片付ければいいんだか」
 もう一度落ち着いてよく整理してみる。
 自分の身体がおかしくなってしまった。
 それはあの、金髪男に会ってからだと思う。ていうかあいつもそう言ってたし。
 この身体の異常は一体、何なんだろうか。
 本当に『アイスマン』のような身体になってしまったのだろうか。
 ブランコの下に生えている、小さい花を手に取る。
 しかし、さっきのように凍ったりはしなかった。
「あれ……?」
 身体にも雪の結晶のようなものはついてない。
 止まった……?
「ますますわかんねぇー」
 はぁ、と深いため息をつくと、身体中の力が一気に抜けた。よほど緊張していたのだろうか。
 そしてどうやら、今は身体に異変らしきものはないらしい。
「さっきのは一体……ん?」
 公園の入り口のほうを見ると、水城が走ってくるのが見える。
「やべっ、また怒られるかも……」
 呼ぼうか逃げようか考える前に、水城がこちらに気づいた。
「蒼木!」
 眼に涙を浮かべてる。またやっちゃったかと思った。
「ど、どこ行ってたのよ!学校は!?」
「い、いや、それが、その、なんだ……」
「なんだじゃないわよ!」
 怒った目つきでこちらを睨む。これはいつになく真剣に怒っているようだ。
「橋本君に聞いたら、知らないって言うし!雅美に聞いても朝から見てないって言うし!橋本君と一緒じゃなかったの!?」
「いや、まぁ、落ち着いて聞いてくれ」
「何よ」
「まぁ、その……」
 一呼吸して、ぼそぼそと言った。
「……じ、授業が嫌だったから、サボったんだよ」
「ウソ!」
 あっさりバレた。
「蒼木って、授業が嫌で抜け出すよりも、出席日数が欲しいから嫌でも授業に出たがるはずだもん!」
「うっ……」
 おまけに図星。蒼木は小さく顔をひきつらせた。
「何か授業に出れないわけでも、あったんでしょう!」
「そ、それは……」
「あるのね!?」
「いや、その……」
 さすがに水城に、今起こったこと全てを話すことはできない。自分自身、夢かと思うぐらい信じられないのだ。水城に信じてもらえるはずがない。
「わけを聞くまで、逃がさないんだから!」


 床が白いタイル貼りになっており、壁は白とピンクのコンクリートになっていた。天井では蛍光灯がチカチカしていて、昼だというのに暗い。室内で、太陽が逆方向にあるということもあるのだろうが、学校のトイレというのはどこか暗い印象がある。
 そのトイレの三つある個室の中で、一つだけ鍵が閉まっていた。
 中には一人の黒い影があった。
 その黒い影は、持っていた携帯電話から専用の着信音が鳴ったので、少しがっかりした様子で電話をとった。
「はい、こちらオブサーバー」
 ──よお、今蒼木と接触したぜ。やつはとんでもない能力を身につけたようだぞ。
「……そうですか」
 電話先の相手は、軽い口調でこちらに話しかけてきた。
「接触する可能性は、ありますか」
 ──ああ、大いにありうる。『素質』はあったんだが、どうやらダメっぽかった。あの性格じゃ、俺ら側にはつくまいよ。
「……そう、ですか……」
 ──なんだ、残念そうだな。まぁそりゃそうか。
「その……やはり、彼とはいずれ……」
 ──そうだな。やりあうことになるだろう。
「……」
 黒い影が息を呑むのが向こう側にも聞こえたらしい。
 ──そうがっかりすんなって、なんならお前の力でねじふせてもかまわねぇ。少々手荒になるだろうが、大事な仲間を傷つけたくないだろう?
「……はい」
 ──そっちはどうなんだ、バレずにやってるか?
「はい、それは問題ないです。あと二人で、この仕事も終わりです」
 ──仕事、っつーか、私事だろう。まぁいい、バレずにやってくれよ。『チーター』が厄介なんでな。
「その、『チーター』のことなんですが」
 ──ああん?
「……殺してもかまわない、のでしょうか」
 ──そうだなぁ、やつの能力は肉弾戦だし、物理的に考えてお前のほうが上だろう、だが。
「だが?」
 ──知能はお前よか数十倍も上だぞ、普通に戦っては、まず負ける。
「矛盾してますよ」
 ──だから、こちらも何か工夫してやれば、負ける可能性はうんと低くなるだろうよ。
「……必ず勝てる、とは言ってくれないんですね」
 ──そりゃそうだろ、お前だって毎日顔見てんだから、わかるだろ。
「ええ、まぁ……ね」
 ──ま、うまくやってくれよ。
「……」
 そこで電話は終わった。
「そうか、蒼木が……」
 誰にも聞こえない声でそうつぶやいて、黒い影はその場所を去った。
 水洗トイレの水を流す音だけが、室内に響き渡った。


「な、ほんとだって!信じてくれよぉ」
「本当かなぁ?」
 説得してもう一時間近くたつ。蒼木は水城に何を言っても信じてもらえなく、あることないことでっちあげることにした。
「つまり、蒼木が言うには……橋本君にはまだ熱っぽいってウソついて、忘れ物の財布を家にとりに帰ろうとして、三時間目か四時間目に学校に行くつもりだったが、バスに乗ってる途中で今度は学生証を忘れたから、家に帰ろうとしたけどそれもだるくなったから、病み上がりだし今日は学校休もうと思って、この公園でのんびりしてた……ってわけ?」
「あ、あぁ、そうだよ、うん」
 ……ひどい無理やりなウソだけど、今度は水城も信じてくれてるみたいだ。
「あれ、じゃぁ、学校のカバンは?」
「あ……」
 ぎくっ、と身体をこわばらせる。そういえば……カバン、保健室に置いてきたんじゃなかったっけ……?
 や、やべぇ!そうだ、保健の先生を寝かせたまんまだし、薬品も割っちまった。おまけにあのカバンにゃ、俺の学生証が入ってる……
「お、終わった……」
「え、何か言った?」
「あ、いや何でも」
「……変な蒼木」
 ごまかせれたはいいけど、早いとこ保健室に帰ってカバンを取り戻さないと……それも、水城に見つからないように。
「まぁいいわ。それにしても本当に大丈夫なのぉ?やっぱりまだ寝てたほうがいいんじゃないの」
 急に頭を触ろうとしてきた。
「うお、ちょまっ」
「何よぉ、別にいいじゃないの」
 額を手で触られる。水城の手が暖かい。
 蒼木は、水城の手まで凍ってしまうんじゃないかとあせっていた。
「熱は……ないみたいねぇ」
 ほっ……やっぱり今は、身体は普通みたいだ。心臓が止まるかと思った。
「薬は?朝ちゃんと飲んだ?」
「飲んだよ、大丈夫だって」
「ならいいけど……お願いだから、心配させないで!」
「……ごめん」
 何度謝っても心配させてしまうなぁ。そればかりは本当に反省してるんだけどな。
「ちゃんとごめんって思ってるのぉ?」
「思ってるよ!」
「じゃぁ……今週の日曜、デートしてよ」
「あ、あぁ、それぐらいなら……っておい!」
 あと10日ちょっともないのに、デートだって!?
「いい、約束ね!」
「いやお前、テスト大丈夫なのかよ。学年末試験だぞ?難しいぞ?」
「平気よ?それぐらい」
「えっ、じゃぁ……」
「蒼木に、教えてもらうから」
「……」
 少しでも見直しかけた俺がバカだった。
「じゃ、日曜は予定あけといてね!」
「……わかった」
 日曜か……今日が水曜日だから、四日後になるわけか。
 でも、なんだってこんな能力が俺に身についてしまったんだろう。
 『凍らせる』力……か。
 どうやらもう一度、あの金髪男に会う必要があった。
 今は発現していないみたいだけど、また朝のように突発的に出るのうなものなら、水城を危険にさらすかもしれない。
 それに『神隠し』のこともあるし……警察なんてあてにならない、俺が解決できるとも思っていないけど、それでも何か出来ることをしなくちゃ……
「そういえば……」
 思い出すように蒼木がつぶやく。
「ん?どしたの?」
「瀬戸先生を……そうだ、確か水城のクラス、今日物理あったよな」
「うん、あったけど、それが?」
「な、何か、瀬戸先生に変わったこととかなかったか?」
 何をバカなこと聞いてるんだ、と言った後に後悔した。
「別にぃ?なんともなかったけど。てか私、寝ちゃってた……」
「そ、そうか……」
 やはり会って確かめる必要がある。
 何か、あの金髪男と瀬戸先生はつながっているような気がする。
 そしてそれこそ、SF映画やアニメに出てきそうな、いわゆる『悪の組織』っぽいような気がするのである。
 てことは、さしずめ俺は正義のヒーローってか。
 ヒーローごっこが現実になりゃ、それだけ笑えるネタはないな、と苦笑した。
「何がおかしいの?」
 ……とにかく、何があっても、水城だけは巻き込みたくはなかった。
「なーにも。ちょっと俺、学校ですることあったから行ってくるわ」
 いつまでもここにいるわけにはいかない。これ以上被害者を出すわけにはいかない。
 『神隠し』の事件は、どの目撃証言から見ても、そして俺自身が死体のあった現場を見ても明らかだったが、どう考えても人間にできるものじゃない。
 複数の犯行であってもあそこまではできないだろう。仮に一回目や二回目の犯行が複数人で成功したとしても、今じゃ警察が真夜中にも巡回している。三回目以降からはさすがにしにくいだろう。
 逆に一人なら、可能な気もする……もし、仮定の話だが、金髪男の言う『能力』を持った人間なら可能な犯行かもしれない。
 現に、その『能力』について二度も思い知ったことがある。自分の得たいのない力、そしてあのとき金髪男に何かをされた。殴ろうとした寸前で身体が動かなくなったのは、きっとあいつの言う『能力』か何かなんだろう。
 だとすると……何も知らないはずの警察官ごときに対処できるはずがない。言わば一人一人が兵器と言ってもいいぐらいなのだ。自分だって、今は触ったものだけ凍るらしい能力もまだまだ発展途上だとしたら、どこまで成長するのだろうか?やがては地球上のもの全てを凍らせてしまうのだろうか?
 『神隠し』の犯人が人間でないなら、それと同じく人間でないような俺も、ただの殺戮さつりく兵器でしかないのだろうか。
 ヒーローごっこか……本当にヒーローが存在するんなら、きっと俺は悪者なんだろうな。
 ……ふいにむなしくなってきた。何もかもがどうでもいいよくなったような、言い様の無い喪失感に襲われた。
 だから、その水城の言葉を聞いてから理解するのに、少しばかり時間がかかった。
「私も行く」
「……え?」
「何よぉ、私が着いていっちゃ悪いわけ?」
「……だめだ」
「何が?」
 蒼木には自信があった。推理小説などで、「犯罪者は必ず現場に戻る」という鉄則みたいな言葉を信じているからか、やはり瀬戸先生はこの事件と関係があるのではないかと思った。
 実際そうだと思うとぞっとする。もうすぐ二年間にもなる間、犯罪者と同じ学校で教師と生徒の関係だったなんて思うと、平和ボケしている自分に嫌気がさした。
 それとも杞憂きゆうかもしれない。実はたまたま通りがかっただけ、という思い過ごしかもしれない。
 ……いや、ただの通りすがりであるはずがない。それなら俺みたいに驚いて、警察に連絡するのが普通だろう。物理の先生だかなんだかで死体を見慣れているのかは知らないが、それでも人の死体を見て平常心でいれるはずがない。一般人なら警察を呼ぶだろう。
 これで、想像は確信に変わる。自分の中で、全ての答えが見つかった。
 この半年間、この街で起こった事件の中枢ちゅうすうに、関わることができるかもしれない……!
「だめなものは、だめなんだ」
「一緒に言っちゃだめっていうの?」
「……そうだ」
「なんでよ、いいじゃなぁい。私に言えない隠し事でもあるのぉ?」
「……」
 しばらくの間、沈黙が続いた。
「……」
「……あるんだ、ふぅん。わかった、一人で行きなよ」
「……」
「ど、どうせ今日は学校サボるつもりだったからさ。じゃね!日曜、よろしくね!」
 水城は泣きそうな顔をして帰っていってしまった。
「……ごめんな」
 はたして俺は、犯罪者を追う探偵にでもなったつもりなのだろうか。
 ただの高校生だぞ?それが、連続殺人犯を捕まえようだなんて、そんな……
「……でも、それを夢見てた。警察官になる夢だってあったんだ。必ず見つけてやる……」
 何かを決意したように立ち上がり、桜光高校の方へと足を向け、歩き出した。
 蒼木の座っていたブランコには、霜のような雪の結晶がついていた。



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0:人物紹介 1:前奏 2:変異 3:過去 4:遭遇
5:確信 6:正体 7:対峙 8:発覚 9:慟哭
10:序幕 あとがき