| LastEclipse 第一章:失墜のプライド10 | 【長編小説】| ページ内の末尾へ | |
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eternity:永遠 end:終わり * * * ──あれから二日がたつ。 金曜日、学校が午前中で終わった後、夜に橋本の家に行って彼の両親と話し合った。もう『神隠し』は終わったのだが、彼らはこれからも犯罪が起こると信じている。必死になって犯人像を聞かれたりもして、さすがに本当の事を言いたくなった。 しかしそこは、瀬戸先生が いくら危険を避けるためとはいえ、彼らの心の中には永遠に殺人鬼が潜み続けているのだ。さすがに罪悪感に似た感情を押し殺すのには苦労した。 そして伝えたかった……もう大丈夫なんだよ、と。 現在病院で再入院している瀬戸先生は、 「時が来たら、言ってあげるといいわ」 と言っていた。 時が来たら、というのは一体いつの話だろうか。 この時点ではまだ、わからなかった。 「悪いな、こんな日に呼び出して」 日曜日の朝、蒼木は唐金に呼び出されていた。呼び出された場所は、桜光高校の校門だった。 「いや、別に……どした?」 「ちょっと聞きたいことがあってさ」 唐金の顔が妙に真剣だったことに気づいたのは、彼の声がいつもよりもなんだか重苦しく感じたせいだろう。 「なぁ蒼木……お前、俺たちに何か隠してることないか?」 「え?」 隠してること、と言われて動揺を隠しきれない蒼木だった。唐金が何の事を言ってるにせよ、確かに隠し事をしているからだ。 「こんなこと言うのも……皆に悪いのかもしれないけどさ」 「な、なんだよ……」 不意に風が強くなった。この時期の風は本当に寒い。 風が、裏山をざわつかせた。 「あの事件の、本当の犯人って──」 唐金の声は最後までよく聞き取れなかった。 「え?今何て言った?」 本当の犯人、というところまでは聞こえたが、そこから先は風の音に流されてしまった。 もしかして橋本のことを言ったのではないだろうか。そしたら俺は、一体何と答えればいい? 「……いや、何でもない。忘れてくれ」 「き、気になるじゃねぇか」 気になるとは言ってはみたものの、どこかでホッとしている自分もいた。 「やっぱ何でもねぇ……あ、そうだ。悪いけど明日さ、数学のノート持ってきてくれ。ちょっと寝ちまってな、ノートとってないんだよ」 「あ、あぁ……そんなことなら、お安い御用さ」 話を変えられたのだろうか、それとも本当に言いたかったことがその話なのかは、知る術は無かった。 それから少し世間話をして、唐金とは別れた。なんだか胸に引っかかるものがあるが、気のせいだと思うようにした。 * * * 「悪いな、デートできなくて」 そう言って蒼木は先にコタツの中に入る。水城麻奈の部屋には暖房器具が無かったので、冬はよくこのコタツで寒さをしのいでいる。 蒼木がよく水城の家に来て勉強を教えるときも、冬はこのコタツの中だった。 みかんのイラストが可愛らしい、愛嬌のある古いものだ。蒼木は、そのコタツが好きだった。 「ううん、いいの。そんな傷じゃ……行けないもんね」 お茶の入ったコップを二つ持ってきて、水城が部屋に入ってきた。 蒼木の傷はまだ全然完治してはいないが、痛さとは反して予想以上に傷が浅かったことがわかった。しかしやはり痛み出すときがあるのと、切られた個所が多すぎるのとで、蒼木の身体は 幸いにも、手の甲や顔など、露出部分は全く攻撃されなかった。服を脱げば傷口が もしかするとそれは、橋本の優しさだったのかもしれない……今でもすごく痛いのだが。 「水城は気にすんなよ。逃げれば済んだ話だしなぁ」 まるで他人事のように話す蒼木を見て、水城は頬を膨らませる。 「そんなこと言わないでよ、一歩間違えたら蒼木、殺されてたんだよ?危ないことはあれほどしないでって言ってきたのに……何度言ったらわかるのよ」 水城もコタツの中に入る。 「だから悪かったって。ま、結果オーライって言うじゃんか」 「結果オーライって……どれだけ私が心配してるのか、全っ然わかってないもん」 「でも俺だって、水城のことを大事に思ってるさ」 「本当にそう思ってるんなら、もう心配させないで」 心配性の水城は、蒼木が何かしでかすといつも怒る。しかし蒼木も、心配させまいと努力はしているつもりなのだ。 「わかったよ……わかってる。でもあとちょっとで犯人を捕まえられそうだったんだけど、惜しかったなぁ」 「バカ……私は蒼木さえ無事ならそれでいいの」 「じゃぁやっぱ、結果オーライだな」 そう……蒼木は生き延びれたのだ。それだけでも十分良いだろうと思った。 でも、これで本当に良かったのだろうか? 橋本が目覚めたら、なんと声をかけてやればよいのか、蒼木は複雑な気分だった。 そして、蒼木の身体に起きた奇妙な能力……あれは何だったのだろうか。 本当にこの事件は終わったのだろうか? 「あ……雪だ」 水城が窓を指さした。 「ほんとだ。この前は雨だったのになぁ」 白い斑点が、窓に少しずつ模様を作っていく。 「……そうだ、忘れないうちに渡しておかなくちゃ」 「ん?」 「ちょっと待ってて!」 水城は立ち上がると、そそくさと部屋を出て行った。 「何なんだ……」 しばらくドアを見つめていたが、帰ってこないので思わず寝転んだ。 そして考える──この半年間に起こった事件のことを。その時感じた、犯人への そして、市原や橋本のことを。 「俺は……本当にこれで良かったのか?」 橋本に対して偉そうなことを言ってしまったけれど、それが正しいことなのかは誰にもわからないことだった。それを正しいと判断するのは……いつだって自分自身だ。 今回のことも、これで良かったんだと自分自身で納得すればすっきりするはずだ。でも何故か、ウソでも納得することが出来なかった。 あの奇妙な金髪男と……またどこかで会うような気がした。 この事件だけでは終わらない。いや、むしろこれが始まりのような気さえした。 そんな感覚を覚えた。 「遅くなってごめん!なかなか見つからなくって……」 水城は息を荒くして帰って来たので、蒼木も起き上がる。 「何してたんだ……ん?」 水城の手には赤い包装紙に包まれた小さい箱があった。 「はいこれ」 「これ、何?」 「開けてみて」 言われて受け取り開けてみると……中から小さく可愛らしいチョコレートが数個ある。 色から判断すると、ミルクやビターはもちろん、イチゴやホワイトやコーヒー……様々な色の丸いチョコレートだ。 「……チョコ?」 「そ、一日早いけど」 「何が一日早いんだ?」 蒼木は何故このタイミングでチョコを受け取ったのかが全くわからない。水城は呆れて、 「はぁー……やっぱり渡すんじゃなかったかなぁ」 「な、何がだよ一体……」 「明日は十四日よ、ほら」 壁にかけられたカレンダーを見てみると……今日の日付は二月十三日、明日は二月十四日だ。 「つまり、えーと……バレンタインか?」 「もー、ほんとニブいんだから」 水城はその箱からチョコを一つ取り出し、食べてしまった。 「お、おい。俺のチョコじゃねぇのか」 「いいじゃない一つぐらい……やっぱ私の作ったチョコはおいしいね」 満足げな顔で口をもぐもぐさせている。 「俺も食うよ……うん、確かにうまい」 「でしょ?」 蒼木は水城の作ったチョコを、一つずつ丁寧に食べた。 「そーいや……もうバレンタインか。なぁ、覚えてるか?俺たちの初めてのバレンタイン」 「え、うん」 「確かあの時も雪が降ってたな……あの時も、こんな一口サイズのチョコだった。懐かしいなぁ」 「覚えてたんだ」 「ああ……」 再び窓の外を見ると、やはり雪が降り続いていた。 窓の隅のほうに、少しだけ雪が積もっている。 今日は冷えるだろうな。蒼木はつぶやいた。 明日はまた暖かくなるってさ。水城はつぶやいた。 明日も明後日も、ずーっと── ──永遠とも言える当たり前の日常がこれから崩壊していくことなど、彼らはまだ知らない。 そして動き出した歯車を止める術がもはや無いということも、彼らはまだ、知らない。 外は、今にも消えてしまいそうな雪が降り続いていた。 ![]() * * * ……とまぁ、ここで蒼木護の物語は終わりだ。 どうだ?中々楽しめたか? ん?蒼木護の物語が終わりってのはどういうことかって? そうなんだよ……実はなぁ、蒼木護の物語はこれで終わりなんだよ。主人公のくせに、ふざけるなって感じだろ? まぁこの物語の本当の主人公は、当然、このイクシード様に決まりだがな。 最初に言っただろ?これから動き出すのは、蒼木護の物語じゃない。 この舞台には四人の役者がいた。 でも主人公とヒロインの二人だけでは、舞台は完全に演じきれねぇだろ? 役者がまだ揃ってねぇんだよなぁ、これが。 四人揃って初めてこの舞台は、進みだすんだぜ。 「生きる意味」を見つけるために、探し、求め、戦い、失い、そして手にするその日まで…… もう誰もあいつらの運命を止めることはできねぇ。 よくほら、運命は自分で切り開く、とか言うやつがいるじゃねぇかよ? でもな、その『運命を切り開く』ことすら、それがそいつの『運命』なんだよ。 これはもう、止められねぇ戦いの幕開けなんだ。 『あと二人』があいつらと接触した、その時……この四人は一体、どういった『答え』を見つけ出すんだろうなぁ。俺はそれが楽しみで仕方ないぜ。 ま、ちぃっとばかし長く退屈かもしれねぇが、この舞台、最後まで見届けてくれや。 ……さて。俺もそろそろ行かねぇとな。語りべ役はここらへんにしとくぜ。 じゃ、また会おう。 俺も舞台に上がる時が来たぜ── |