| LastEclipse 第二章:炎のコロシアム1 | 【長編小説】| ページ内の末尾へ | |
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【エクリプス…Eclipse】 [名](光の)消滅 * * * あなたは運命という存在を信じる?私は信じるわ。少なくともこの私ディスコードは、運命の人イクシードと出会ってからの人生が百八十度変わった。彼と出会ったのは運命だし、私の人生を変えたのも運命なの。 だから私は……彼らの出会いもまた、運命なのだと思う。 秩序というのは、それ単体では何の意味も無い言葉。秩序を正すべき人がいてこそ、秩序という言葉が 存在する。 それと同じように、混沌という言葉は、それ単体では何の意味も無いものだけれど、秩序を脅かす存在がいて初めて生まれる言葉。 私たちはどうやら、世界全体から見ると混沌と呼ばれているらしい。しかし私たちは私たちなりに、秩序がある。私たちもまた、私たちの秩序を正して生きている。 私たちからすれば、彼らこそが混沌であり、私たちの秩序を脅かす存在なの。 そう……蒼木護。彼は私たちにとって存在してはならない存在。私たちは何としても、彼を排除し、私たちの秩序を取り戻さなければいけない。 私たちと彼らは、お互いの秩序を守るために戦う必要がある。これはもう、何があっても覆せない事実。 でも、私たちはイクシードが主催する『舞台』には立てない。この『舞台』に立てるのは、四人の少年少女だけ。 蒼木護とその彼女は、もう『舞台』への階段の上り始めている。 あとは、残りの二人を待つだけ。 彼ら四人が初めて『舞台』に上がり、対峙したとき、混沌が生まれる。そのときが──戦いの時。 彼らはその時何を思い、何を抱き、何のために戦うのだろう。 この『舞台』の始まりを告げるのは彼ら自身。そして終わりも……彼ら自身。 やがてこの『舞台』は、闘技場へと変わるだろう。 炎に包まれた闘技場の中で、彼らは逃げることもできずただ戦い続けるだろう。 世界という名の闘技場。混沌という名の炎の中で── * * * 遠くで、波の残響だけが聞こえる。周囲には人はおらず、ただ二人の男女が寄り添っているだけ。その男女は、浜辺に腰を下ろして 夜空を見上げると、数多の星々が臨む。真上には大きな満月が淡く光っている。 他に明かりはなく、海の遥か向こうは闇に覆われている。二人の男女を照らしているのは、淡い月明かりのみ。けれどそれは、都会では見られないほど明るく、月を見上げると眩しい。それは、この島にはほとんど街灯が無いからだ。 少女が浜の砂を その少女の髪は極めて珍しく、異質だった。生まれたときから指で数えるほどしか髪を切ったことがないその少女は、とても長い髪をしていた。浜に髪が当たり、先端には砂が少しついている。色は漆黒で、ツヤがある。肌が色白なだけに、髪だけが一層目立っている。それが彼女のチャームポイントであり、魅力だった。 少年の髪は炎のように赤く、少女とは対照的に短い。今にも逆立ちそうな少年の頭は、近寄りがたい空気を放っている。チンピラのようで、そうでもない。しかし決して、まじめな印象、という感じはしない。 少女のほうは逆に清楚な印象があり、この二人は そんな男女が、この孤島で何をしているのか、それも傍から見れば全くわからない。彼らはさっき、『仕事』を終えたところで、翌日には船で日本に帰るだろう。有名な観光地でもあるこの孤島だが、飛行機は飛んでいないのだ。 そしてこの男女の会話もまた、傍から見れば──いや、一般人からすると、おおよそ意味のわからない話をしている。しかしそれは、聞くものが聞けば世界全体を巻き込むのほどの大事件と関係していることがわかる。 異質、異能、異端……それらのどの言葉にも当てはまり、そして人類とはあまりに遠く離れた存在。人の形をしたその悪魔の名は── C.Eed. それが転じて『CEED』と書く。そのまま読むと『シード』という発音をするが、誰がその名を決めたのか、今となってはごくわずかの人間しか知らない。 そのCEEDと呼ばれる種は、初めは一つの些細な病気から始まった。非常に有名すぎて、あまりその病気については深刻視されていない。正式名称を自己免疫疾患と言うその病気は、しかしその名称ではあまり知られていない。似たような症状で最も知れ渡っているとすると、糖尿病という病気に似ている点がある。 しかしもちろん、CEED患者の尿に糖が含まれているということはない。発症する経緯が似ているわけで、症状は全く違うものだ。 そして自己免疫疾患に陥った生き物の中で、CEEDという種に成り果てるのは、わずか一パーセントにも満たない。その天文学的な確率の中で生まれた新しい種は、それまでとは似ても似つかない才能や知性や能力を得ることができる。原因はプロウィルスという『遺伝子』で、誰の身体にも存在する、ごくありふれた生命体。そのウィルスが発症し、自己免疫疾患を起こしたとき、一パーセントにも満たない確率で、遺伝子細胞が組み替えられ、病気を完治させるものが存在する。 いや、『完治』という言葉は正確ではないかもしれない。『二度と元の状態には戻れない』という点では、たとえ病気が回復して肉体が健康になっても、それはもう前の自分の身体ではないわけだから、完治とは言えないだろう。 『改変』、という言葉が的確なのだ。 改変されたその遺伝子は、脳を百パーセント活性化させ、普通の生き物と比べると文字通り『ありえない』ことができるようになる。 それらの『ありえない』能力をCEED能力と呼び、そのCEED能力を使うことができる生き物を総称して『CEED』と呼ぶ。科学的には解明されていない部分が多く、CEEDとなった生き物は、何類何科の生き物かを断定できない科学者が大勢いる。だからひとまず、それら全てをCEEDと定義付けることで、少なくとも人類とは違うんだという考え方をとった。 今もまだ、CEEDが何者かを完全に解明した科学者はいない。 ただ、CEEDという特別種だけが、今もまだ増え続けているのだ。 その原因を完全に知る科学者もまだ、いない…… その男女の会話にはたまに、その『CEED』という単語が出てくる。どこからその名を知ったのかは誰にもわからないし、その男女たちがCEEDなのかもまた、誰にもわからない。 ただ、その名を知っている『普通の一般人』は、この世界にはいないということ。 その名を語るということが『普通でない人』を証明していることは、明らかだ。 今はまだ、誰にもわからない。 これから起こる真実と、その 「本当に俺達、これで良かったのか?」 少年が寄り添ったまま、少女に問いかけた。 「いいのよ……」 「俺は、あの人の考えに賛成して、ここにいる。でもお前は、俺に付いてきただけだろう?」 「私は……あなたと……一緒なら……どこへでも……行くわ……」 少女の声はとても小さく、近くに寄らないと聴こえない。 「もう、後には引けないんだぞ」 「わかってる……」 「そうか……俺は何があっても、お前を守ってやるからな」 「ええ……」 「絶対に……」 しばらく二人は沈黙し、海を眺めていた。何秒、何分ともわからないまま、静かに時は過ぎていった。 ぼんやりとした暗闇の中で、とても、静かに……その中で彼らは何を思い、何を抱いているのだろうか。 やはりその答えを知るものは誰もおらず、そして少年は軽い口調で話し出した。 「あーあ、蒼木には何て言おうかねえ」 「何も……言わないほうが……賢明よ……」 「だろうな……さて、これから忙しくなるぞ。そういやまだ、レポート終わってねえや。帰ってから仕上げないとな」 「ふふっ……」 二人は立ち上がる。 手を取り、歩き出す。 どこへ行くのかは、誰にもわからない。 ただ今思うと、このときの決断が、後戻りできる最後のチャンスだった。 わかっているのはただ一つ。 動き出した歯車は、今なお急速に加速しつつあるのだと。 |